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前回の記事の続きになります。

私が執筆中の、近未来の日本を舞台にした伝奇バイオレンス小説「鬼喰い」のリンクはこちらです。

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ハンズオン


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情報収集の後は「ハンズオン」です。IT業界の方であれば頻繁に耳にする言葉だと思いますが、要するに「実際に手を動かしてモノを作ってみる」ということになります。

前の記事で紹介させて頂いた参考書籍の「書くことについて」「売れる作家の全技術」「小説家という職業」、そして私が大ファンである菊地秀行さんの日記を読む限り、作家の方は「ストーリーをあまり考えずにいきなり書く」方が多いようでしたので、じゃあ自分もその方法でやってみようということで、ほとんど何も決めずにいきなり書いてみました。

その内容が下記になります。


みんなで死体を見てみよう

「どこがどう、と言われると難しいんですが・・・」

「そんな曖昧なこと言われても困っちゃうなあ。専門家なんだからさ、もうちょっとはっきりした根拠を言ってもらえないと」

「そうですよね・・・ほんとそうなんですけど・・・」

普段から決して断定的な言い方をしないのが、水島くんの特徴だ。

あとで責任を負わされないように、常に逃げ道を用意しておくのはこの世界では当然の護身術であるし、検視官である以上は不正確なことを言われてもこちらも困るので、彼のスタイルに文句をつけるつもりはない。

だが今回の場合、どう見ても単なる路上生活者の凍死にしか思えない一件を、「なにかがおかしい」と言い出したのは彼なのだ。

法律上、検視官に仕事が回ってくるということは「死因に疑いあり」ということになるのだが、大抵それは形式上のことで、特にこういったケースにおいて事件性があるということはまずない。

徒労に終わりそうなことで仕事を増やされるのは誰でも御免こうむりたいわけだが、検視官が「おかしい」と言うのであれば、こちらとしても「どこがどうおかしいのか」を確認せざるを得ない。

ところが彼ときたら、具体的に死体のどこがおかしいのか、死因のどこに疑問があるのか、自分でもはっきり分からないと困惑するばかりで、もどかしいことおびただしい。

「死因が"凍死"だということは間違いないわけでしょ?」

「はい、所見から総合的に判断する限りでは、死因が低体温症によるものであるということはほぼ確実であると考えて良いのではないかと思われます。」

「"ほぼ"っていうことはそれ以外の可能性もあるわけ?そこに疑問があるってこと?」

「いえ、凍死であるということに疑問を挟む合理性はほとんど無いと考えて良いと思われます」

「遠回しだなあ。じゃあ死因が問題じゃないとしたら、水島くんは何に疑問を感じてるわけ?」

「そこがわからないんですよね・・・」

「参るなあ。君がわからないんじゃ、俺たちにはもっとわからんよ」

堂々巡りである。温厚で知られる俺もさすがにイライラしてきた。

だが俺がこの堂々巡りに付き合っているのには理由がある。
彼は、単なる思い付きでこういうことを言い出すタイプの人間ではないのだ。

承認欲求が強いわけでもなく、事実を出来るだけ客観的に合理的に伝えることを重視し、余計なことを言わないように常に気を配って仕事に取り組んでいる人間なのだ。

例えば彼は「〜と考えます」ではなく、「〜と考えられます」とか「〜と思われます」という話し方をする。

こういう、まるで自分の意見でないかのように客観的に物事を述べる癖のついた男が、面倒なことになると分かっていながらこんなおかしなことを言い出すとは思えない。

つまり、実際に多分なにかがおかしいのだ。この死体は。

こんな感じになります。とりあえず「死体になにか不審な点があるが、具体的にそれが何なのか分からない」という「」と、主人公の刑事と検視官という二人の「登場人物」、そして刑事の「一人称視点」で書くということだけを決めて書いてみたのですが、この段階でもう書き詰まりましたので、残念ながら私には「書きながらその先をアドリブで考える才能はない」ようだとこの時点で判断しました。

(ですが、短くて未完成な小説ながらも実際に書いてみたことで、「セリフって意外と書きやすいんだな」ということであったり、「自分が大好きでよく観てるもの(漫才やコントなど)の要素はどうしても入ってくる = だったらそれを活かせばいい」というようなことが分かったので、それだけでもかなり収穫がありました)

ということで物語をいきなり書くことは諦めて、「キャラクター・世界観・ストーリー・テーマ」という物語の四大構造をかなり細かく設定する「プロット作り」をやってみることにしたのですが、それは次回の記事で紹介したいと思います。

エンジニアが長編小説の執筆にチャレンジしてみた(3)